AIバブルに亀裂が入り始めたのか
最近、テック業界のある種の「お祭り騒ぎ」に冷や水を浴びせるような議論が相次いでいる。AIの進歩は本当に加速しているのか、それとも実は頭打ちになっているのか——いわゆる「AIスローダウン論」が急速に広まりつつある。そのタイミングが悪いことに、セールスフォースが自社のAI戦略を高らかに発表しようとしていた矢先に、この論争が降りかかってきた。
僕がエンジニアとしてこの業界を見ていると、こういった議論はいつも二極化する傾向がある。「AIはもうオワコン」という過度な悲観論と、「まだまだこれからだ」という根拠の薄い楽観論。どちらも正直、少し的外れだと感じている。実態はもっと複雑で、地味で、面白い。
セールスフォースが直面した現実
セールスフォースはここ数年、「Agentforce」をはじめとするAIエージェント機能を主力製品として積極的にプッシュしてきた。マーク・ベニオフCEOは事あるごとにAIによる業務変革を強調し、投資家やパートナー企業に対して壮大なビジョンを描いてきた。ところが今、そのビジョンの土台となる「AIは指数関数的に進化し続ける」という前提に疑問符がつき始めている。
具体的には、大規模言語モデルの性能向上が以前ほど劇的ではなくなってきたという指摘が研究者やアナリストの間から出てきた。スケーリング則——モデルを大きくすれば賢くなるという法則——が限界に近づいているのではないかという懸念だ。これはセールスフォースのようなAI機能を売りにするベンダーにとって、無視できない話である。
僕自身、日々モデルを触っていて「ここ半年で明らかに賢くなったな」と実感できる瞬間が減ってきたと感じている。もちろん進歩はしているが、2022年から2023年にかけてのあの圧倒的な「驚き」はトーンダウンしている気がする。
それでもAIは終わらない、ただし話は変わる
だからといって、AIへの投資や開発が止まるとは思っていない。むしろ、フェーズが変わるのだと理解している。これまでの「とにかく大きなモデルを作れば勝ち」という時代から、「いかに実用的なシステムに落とし込むか」という時代へのシフトだ。エンジニアリングの勝負になるのは、正直なところ歓迎したい変化でもある。
セールスフォースの立場で言えば、この論争はむしろチャンスに変えられると思う。モデルそのものの進化に依存するのではなく、CRMデータとの統合や業務フローへの組み込みという「実装力」で差別化できれば、スローダウン論は逆風にならない。問題は、それをきちんと市場に伝えられるかどうかだ。
AIを取り巻く議論は今後もますます激しくなるだろう。僕たちエンジニアにできることは、流行り言葉に踊らされず、実際に動くものを地道に作り続けることだと改めて感じている。
