TechCrunch Disrupt 2026で、ある意味で業界全体に響く問いが投げかけられた。「OpenAIがあなたのプロダクトロードマップをそのまま実装してリリースしてきたら、あなたはどうするか?」という問いだ。これはもはや仮定の話ではない。すでに多くのスタートアップ創業者やエンジニアが現実として直面している課題だ。
「OpenAIに食われる」という恐怖の正体
正直に言う。自分もこの問題を他人事とは思えない。数ヶ月かけて設計したAIを使った文書要約ツールが、ある朝突然OpenAIの新機能アップデートによって完全に代替されてしまう——そういうシナリオはもはやSFではない。実際、ChatGPTのプラグイン展開やGPT-4oのマルチモーダル対応によって、複数のスタートアップが事業の軸足を急転換せざるを得なかったことはよく知られている。
Disruptの会場でも、登壇したVCや創業者たちはこの問題に対して様々な意見を持っていた。「OpenAIと競争するな、彼らのプラットフォームの上に乗れ」という声がある一方で、「依存すること自体がリスクだ」という警戒論も根強かった。どちらも正しい側面を持っており、だからこそ答えが見えにくい。
プラットフォームリスクという古くて新しい問題
思い返せば、同じような構図はかつてもあった。AppleのApp Storeにすべてを依存していた開発者たちが、ある日突然Appleが同一機能をOSに組み込んだことで市場を失った。GoogleのSEO依存で成長したメディアが、アルゴリズム変更一つで消えていった。OpenAIによるロードマップの先取りは、その最新版に過ぎない。
では何が違うのか。AIの進化速度だ。従来のプラットフォームリスクは数年単位のタイムスケールで進行したが、AIの場合は数週間から数ヶ月で地図が塗り替わる。スタートアップがプロトタイプを完成させるよりも早く、OpenAIが同等の機能を一般公開してくることすらある。これは単なる競合ではなく、ゲームのルールそのものが変わり続けている状態だ。
それでもエンジニアが戦える場所はどこか
Disruptでの議論を通じて自分が感じたのは、「汎用性で戦うな、特化で差をつけろ」というメッセージの強さだ。OpenAIが提供するのはあくまで汎用的な能力の集積であり、特定の業界・言語・ユースケースに深く根ざしたプロダクトはまだ十分な余地がある。医療・法律・製造業のような規制が絡む領域や、日本語特有のニュアンスを扱うドメインなどは、その典型例だと思う。
また、テクノロジー単体ではなく、ユーザーとの関係性やワークフローへの統合深度こそが本当の堀になるという視点も印象的だった。ツールは代替されても、信頼と習慣は簡単には移行しない。自分自身、今後のプロダクト設計においてこの視点を強く意識していきたいと感じている。OpenAIに食われることを恐れるよりも、食われない場所を見極めることに集中する——それが今の自分なりの答えだ。
