AIの生みの親が、AIに追われている皮肉
Transformerアーキテクチャを生み出したのはGoogleだ。現在の生成AIブームの基盤となった技術論文「Attention is All You Need」は、2017年にGoogle Brainの研究者たちが発表したものである。それにもかかわらず、2022年末にOpenAIがChatGPTを世に放った瞬間、世間の目には「GoogleはAI競争で遅れをとった」という印象が焼き付いてしまった。僕はこのニュースを聞いたとき、正直かなり驚いた。技術的な地力でいえば、Googleはどの企業にも負けていないはずなのに、なぜこうなるのかと。
Googleが抱える構造的ジレンマ
問題の本質は、Googleのビジネスモデルそのものにある。同社の収益の約80%は検索広告から生み出されている。生成AIによる回答が検索結果を代替してしまえば、ユーザーは広告が表示されるリンクをクリックしなくなる。つまりGoogleにとって、自社の検索エンジンを破壊する可能性のあるAI製品を全力で世に出すことは、自分の首を自分で絞める行為に等しい。これを業界では「イノベーターのジレンマ」と呼ぶが、Googleはまさにその典型例だと僕は思っている。
加えて、Googleは企業規模が巨大すぎるゆえの意思決定の遅さという問題も抱えている。ChatGPTへの対抗馬として投入したBardは、デモ発表時に事実誤認の回答をしてしまい、株価が一時急落するという失態を演じた。あの瞬間、社内のレビュープロセスや品質管理の甘さが世界中に露呈した。スタートアップのスピード感とは真逆の、大企業特有の硬直性がそこにあった。
それでもGoogleには勝ち筋がある
ただ、Googleをカウントアウトするのは時期尚早だとも思っている。GeminiシリーズはGPT-4と比較しても遜色ないベンチマーク結果を出しており、特にマルチモーダル処理においては優位性を示す場面もある。何より、GoogleはYouTube、Gmail、Googleマップなど、何十億人もが毎日使うプロダクト群を持っている。これらにAIを深く統合していく戦略は、OpenAIが単独では到底真似できないスケールの強みだ。
DeepMindの研究力も見逃せない。AlphaFoldがタンパク質構造予測の問題を解決してノーベル賞級の評価を受けたように、純粋な研究能力においてGoogleは依然として世界トップクラスにいる。問題は技術力ではなく、それをプロダクトに転換する意思と速度だ。
結局のところ、GoogleがAI競争に「勝ちたいのか」という問いへの答えは「勝ちたいが、今の稼ぎを失いたくない」というものだと僕は見ている。その葛藤を乗り越えられるかどうかが、今後数年のGoogleの命運を決めるだろう。エンジニアとして、その行方を固唾をのんで見守っている。
